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公益財団法人渋沢栄一記念財団情報資源センターがお送りするブログです。
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 1920(大正9)年1月9日 (79歳) 協調会主催の招宴で失業問題について語る 【『渋沢栄一伝記資料』第31巻掲載】

日栄一、当会主催の職業紹介所員招宴に出席す。

出典:『渋沢栄一伝記資料』 3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代 明治四十二年−昭和六年 / 1部 社会公共事業 / 2章 労資協調及ビ融和事業 / 1節 労資協調 / 2款 財団法人協調会 【第31巻 p.493-496】
・『渋沢栄一伝記資料』第31巻目次詳細
http://www.shibusawa.or.jp/SH/denki/31.html

協調会は「労働問題を専門に扱い、政府と民間が一致して取組む機関」(『常設展示図録 : 渋沢史料館』(渋沢史料館, 2000.11)p.96)として、1919(大正8)年に設立されました。『渋沢栄一伝記資料』第31巻p.495-496には失業問題について渋沢栄一が語った内容が、『竜門雑誌』第384号(1920.05)p.59からの転載として紹介されています。

○失業問題に就て 経済界の不景気に伴ふて、必然起り来るものは労働者の失業問題なるが、右に就き青渊先生は左の如く語られたる趣、四月二十一日東京毎日新聞は報ぜり。
 論語には衣食足つて礼節を知ると云ふ事が有りますが、国民を健全に発達せしめ、其思想を穏和ならしむるには、必ず衣食をして足らしめる様にせねばならぬとは、孔子の時代から今も変らぬ真理であつて、人民の上に立つ者や民衆を愛する者が、必ず心に留て置かねばならぬ事である。社会の危機、即ち暴動行為だとか、労働問題だとか、社会生活を脅かす事件は、其根本に遡れば皆パンの問題であると思ふ。人間の慾望の中では食ふ事程強烈な要求は無いのである一つ食べないとなると、今迄臆病であつた者も自暴自棄力が起り、弱い者も死物狂になる。私は我同胞中に一人でも失業者があつて苦しむかと思ふと、実に同情の涙が湧き出るのである。私は老後を実に国家の為に一身を捧げて尽す覚悟であるが、若しや失業者が多くなれば、身命をなげうつて此の救済に尽す考へである。其救済の方法としては、先づ英米にやつてゐる官立の職業紹介所を設立し、労働者の不足してる部分へ余つてゐる方から送るのである。又之と同じく重要な事は失業保険制度を起す事である。かくして尚当面の急を救ふ事が出来ぬ時は、諸種の土木事業を起すが必要です。土木事業とは、道路の改良、住宅問題の徹底的改良である。私は労資協調会の全力をあげて此問題を解決し、以て国家の為めに尽したいと思ふ云々。
(『渋沢栄一伝記資料』第31巻p.495-496)

協調会に関する記事は『渋沢栄一伝記資料』第31巻p.457-594に、また同巻p.605-662には「労働問題ニ対スル栄一ノ意見」が掲載されています。