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公益財団法人渋沢栄一記念財団情報資源センターがお送りするブログです。
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 1909(明治42)年12月25日(土) (69歳) 渋沢栄一、東京経済学協会の帰国歓迎会で演説 【『渋沢栄一伝記資料』第46巻掲載】

是月十七日、栄一を団長とする渡米実業団帰国す。当協会、富士見軒に於て、十二月例会を兼ね栄一の歓迎会を開催す。栄一出席して演説をなす。

出典:『渋沢栄一伝記資料』 3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代 明治四十二年−昭和六年 / 1部 社会公共事業 / 6章 学術及ビ其他ノ文化事業 / 1節 学術 / 1款 東京経済学協会 【第46巻 p.318-319】

1909(明治42)年12月25日夜、東京経済学協会は12月の例会を兼ねて渋沢栄一渡瀬寅次郎(わたせ・とらじろう、1859-1926)、小池国三(こいけ・くにぞう、1866-1925)ら渡米実業団団員を招いて帰朝歓迎会を開催しました。栄一はその席上で、まず団員一行が自我を抑えて統一性を保ったこと、また現地での対応が極めて懇篤であったことを、ひとつひとつ事例を挙げて説明し、続けて日米の企業間の相違などについて、要約すると以下のように語っています。
 アメリカは日本の商工業の前途に対して非常に恐怖心を抱き、豊富な資源をもって東洋に進出しようとしている。今日のアメリカの雄勢は豊かな天然資源によるものだが、一面においては米国人の「奮発力」に帰するものでもある。なんとなれば、アメリカでは学理よりもまず実利を優先する。法令に束縛されず、利益が見込めれば直ちに着手するという特徴を持つ。日本が学理に走り、現実に即していなくても万事法律づくめに解釈するのと比べると雲泥の差がある。日本の現状は決して商工業を発達させる所以に無く、日本は大いに啓発をしないとアメリカ人の蹂躙に甘んぜざるをえないだろう。
 排日について、カリフォルニア労働協会が存在する限り到底止まないだろうが、日本政府があまりに正直に移民禁止を断行したため、カリフォルニア州開発の一部が頓挫しつつある。
 日本国内の道路や旅館について、外国人を招致するには恥ずかしい。改善をしないと都市としても国家としても、経済上に大きな損失がある。
渋沢栄一伝記資料』第46巻にはこの日の演説の概要が次のように紹介されています。

竜門雑誌  第二六〇号・第四四頁 明治四三年一月
△経済学協会歓迎会(廿五日) 経済学協会にては、廿五日夜青渊先生を招待して歓迎旁々例会を開きたり、先生は先づ渡米団一行が、能く自我を没して統一を保ちし事と、其待遇の極めて懇篤なりし事を一一例証を挙げて説明し、扨て
  米人は国自慢も激しけれ共同時に日本の商工業の前途に対して非常に恐怖心を抱き、飽迄競争せんとするの決心を示し居れり、或点までは日本を買被り居るかの観なきに非るも、一歩を過ぐれば東洋の将来は総て日本の専有に帰す可しと確心し居れり
とて、米人が先生に向て、日本が米国より買ふ事の少くして売る事の多きを語たるに対し、先生が、米人は国産を海外に売出す手段に於て遥に独逸人に劣る旨を答弁し置きしも、彼の無尽蔵の天産物を抱いて東洋に雄飛せんとしつゝある以上は、決して油断ある可からず、米国が今日の雄勢は固より天産物に富むが為なれ共
  一面に於ては米人の奮発力に帰せざる可からず、何となれば彼等は学理よりも先づ実利を先として、法令あれ共之に束縛されず、苟も利益ありと認むれば直に著手するの一特色を有す、之を日本が学理にのみ走りて事実の反するに注意せず、万事を法律づくめに解釈せんとするに比すれば雲泥の相違あり、日本の現状は決して商工業を発達せしむる所以にあらず
とて彼我企業の相違を指摘し、帰朝早々之に対する方策は容易に画策し得ずと雖も、日本は此際大に啓発するなくんば、米人の蹂躙に甘ぜざるを得ざるに至る可しとて語り、又た排日熱はカルホルニヤ労働協会の存する限り到底々止せざるべきも、日本政府が余りに正直に移民禁止を断行せしため、加洲の開発に一頓挫を来しつゝありとの新事実を添加し、更に内地の道路旅館等が外人を招致するに恥かしく、是等の改善をも試みざれば都市としても国家としても経済上に非常の損失あり、との意見をも追加せり、散会したるは午後九時過なりといふ。
(『渋沢栄一伝記資料』第46巻p.318-319)

なお、『渋沢栄一伝記資料』第32巻にも同じ箇所が採録されていますが、句読点の使い方や漢字の表記の仕方等に若干の差異が見られます。