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公益財団法人渋沢栄一記念財団情報資源センターがお送りするブログです。
渋沢栄一、社史を始めとする実業史、アーカイブズや図書館に関連する情報をご紹介しています。

 1881(明治14)年7月26日(火) (41歳) 東京府の東京商法講習所経費支出拒否を受け、渋沢栄一は農商務省からの補助をとりつける 【『渋沢栄一伝記資料』第26巻掲載】

是日東京府会、当講習所経費の支出を拒み、その廃止を議決す。栄一、府知事松田道之及び農商務卿河野敏鎌に謀り、農商務省の補助を得て之を存続せしむ。

出典:『渋沢栄一伝記資料』 2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代 明治六年−四十二年 / 2部 社会公共事業 / 4章 教育 / 1節 実業教育 / 1款 東京商法講習所 【第26巻 p.535-554】

東京高等商業学校同窓会会誌  第六一号 明治四一年一二月
○上略
然るに恰度明治十五年(マヽ)に至りて、尤も十二年に東京府会といふ者が成立して、此府会に出た連中が、其時分には何でも行政官に対しては、経費を節約せしむるが政治家の本務といふやうな有様であつた。[中略] 当時の東京府に対して左様です、先づ第一に養育院を廃止せい、学校を廃止せい、今迄の役人が馬鹿な事ばかりして居る、無駄な銭を使ふと云ふ方の議論で、そこで商業教育は東京府には必要がないと云ふので、之を廃めるといふ議論が出た。それと同時に三菱が此高等商業学校を引受けやうといふ事になつた。併し私は三菱を嫌ふ訳ではないけれとも、個人の学校になると云ふことは情ない、既に森さんの時分に必要ありとして費用を出して補助して、それから続いて段段に生徒も出来て、大きに教育の効能を有つて来て居るのに、どうしても東京府が是位の維持が出来ぬと云ふのは実に情ない、東京府には必要がないと云つて府会で廃めるといふ以上は、最早分らぬ人達であるから仕様がない、是非政府で持つてくれと云ふて其事を請願したがなかなか政府でもそれだけの金は出せぬ。彼此と論じた末に、[中略] 議論の末農商務省が一年継続した。其時は何でも費額が僅に年一万円位でありました、実に軽少なものであつた。それから吾々共其時分の商業学校廃滅をひどく憂へる人々が打寄つて、恰度十六年に芳川さんが東京府知事になつた、此の芳川さんを頻に説いて是非これは府知事の力を以て、政府に維持されるやうに心配してくれと云ふことを頼んだ。所が芳川さんが、市民の希望が強いと云ふ証拠を此に現さぬと、政府で維持させると云ふことが甚だしにくい。[中略] せめて茲に数万の金でも寄附すると云ふやうな工夫はつくまいかと云ふことになつた、併し今日のやうに商会とか会社とか云ふものが力強くございませぬから、直に資金を醵出すると云ふことも骨は折れましたけれども、まあ吾々は最も主唱者であつたから大に論じてとうとう其時には今の銀行集会所です、銀行者仲間で九千円ばかりを寄附すると云ふことに相談を詰めたと覚えて居る、総体で四万円か三万六千円ばかりの寄附金が出来た。それを芳川さんに、斯く必要を感ずる人が多い為め、是程の金額をも寄附するのであるから、是非政府に維持してくれと云ふことを主張して、やはり其翌年も農商務省が維持すると云ふことになつて、其翌々年ですから、十八年に初めてこれが文部省に移つて、全く安全なる官立学校になつて、夫れから存廃に就て吾々が頭を悩ますことはないと云ふことになつた ○下略
   ○右ハ明治四十一年十月二日横浜銀行集会所ニ於テ催サレタル、東京高等商業学校同窓会横浜支部第四十二回例会ニ於ケル、栄一ノ演説ノ一節ナリ。
(『渋沢栄一伝記資料』第26巻p.535-536掲載)

商法講習所とは、1875(明治8)年に森有礼(もり・ありのり、1847-1889)により開かれた私設講習所で、東京商業学校、東京高等商業学校、東京商科大学など改組・改称を経て今日の一橋大学に継承されています
渋沢栄一は1875(明治8)年から経営委員として、1884(明治17)年には校務商議委員に就任、同校の経営に関与・尽力しました。『渋沢栄一伝記資料』中、栄一と東京商法講習所、またその後継校との関わりは以下の巻・ページに紹介されています。

  • 京商法講習所 …… 第26巻 p.501-564
  • 京商業学校 …… 第26巻 p.565-576
  • 高等商業学校 …… 第26巻 p.577-641
  • 東京高等商業学校 …… 第26巻 p.642-720・第44巻 p.141-283
  • 東京商科大学 …… 第44巻 p.284-399

参考:渋沢栄一 母校に重大問題が起こる毎に一度として渋沢翁の力に俟たないことはなかった (PDF 543KB)
一橋大学広報誌「HQ」第26号 春号(April 2010)〕
http://www.hit-u.ac.jp/hq/vol026/hq26_p30-35.pdf