情報資源センター・ブログ

情報の扉の、そのまた向こう

公益財団法人渋沢栄一記念財団情報資源センターがお送りするブログです。
渋沢栄一、社史を始めとする実業史、アーカイブズや図書館に関連する情報をご紹介しています。

 1910(明治43)年8月20日(土) (70歳) 渋沢栄一、東京水災善後会の常務委員長となる 【『渋沢栄一伝記資料』第31巻掲載】

東京府下に於ける水災後の一般衛生施設並に疾病者施療等を目的とし是日当会組織せられ、栄一之が常務委員長となり、種々尽力す。

出典:『渋沢栄一伝記資料』 3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代 明治四十二年−昭和六年 / 1部 社会公共事業 / 1章 社会事業 / 5節 災害救恤 / 1款 東京水災善後会 【第31巻 p.217-245】

1910(明治43)年7月末から8月初旬にかけて、東海道から関東、東北は記録的な大雨に見舞われ、河川が氾濫、東京をはじめ各地で重篤な被害が発生しました。渋沢栄一中野武営(なかの・ぶえい、1848-1918)、豊川良平(とよかわ・りょうへい、1852-1920)ら実業家は、8月18日、19日と協議を重ねて賛助をつのり、8月20日には帝国ホテルで新聞各社社長・主幹に対して東京水災善後会設立趣意書を発表、協力を求めました。

竜門雑誌  第二六八号・第四六―四九頁 明治四三年九月
    ○東京水災善後会
[中略]
     趣意書
 東京府下に於ける此回の洪水は前代未聞の事にして、其の災害の及ぶ処広且つ大、其の惨状窮態実に名状すべからず、父母に別れ妻子に離れ、産を失ひ、飢餓に瀕する等、悲惨・痛傷其の極に達するもの、今や府民幾万の多を数ふ、是れ吾人の痛歎に堪へざる所、而して其の応急救済の策に就ては当局者及江湖の慈善家に於て既に之を諾するありと雖も、此際是れか善後を策するは更に一層重要のことたるを信す、殊に水害後の衛生的施設は最も急要事にして、苟も之を等閑に附し或は機宜を失するか如きことあらんか、忽ち悪疫の発生流行を招き、其の結果更に水害以上の惨禍を来たしたるの事例乏しからず、吾東京府下の如き人口稠密の都市に於て、一旦斯かる惨禍を出現せんか、是れ独り東京府下の不幸たるのみならず、其影響する所容易に測知すべからず、是れ吾人の深く憂慮する所なり、是に於てか有志相謀り、水災善後会を設立して、広く社会の同情を求め、遍く同志を募り、大に資金を蒐集し、進んで当局者と協力し、以て衛生的設備の完整を期し、水災後に於ける恐るべき惨禍の襲来を予防するに努めんとす、冀くは各位本会の目的を助け、以て有終の実あらしめんことを
[後略]
(『渋沢栄一伝記資料』第31巻p.224-255掲載)

栄一は設立当初より常務委員長に就任、同会活動に尽力しています。東京水災善後会は日本銀行総裁ほか会社や個人などに寄付を依頼、多くの寄付を集めて、浸水家屋に対する消毒薬散布費用を東京市に寄贈、そのほか同愛社などの他の救護団体へ活動資金を寄付するなどの活動を重ねました。
渋沢栄一伝記資料』第31巻p.227には1910(明治43)年12月26日に開催された事業報告が『竜門雑誌』第272号(1911.01)p.62-63からの転載として次のように紹介されています。

○東京水災善後会 東京水災善後会は、旧臘十二月二十六日午後二時より東京商業会議所に於て事業報告会を開き、委員長青渊先生は同会事業の経過を報告し、之れに対し柴四朗氏は水害後に於ける水災善後会が衛生上に関し偉大の好結果を奏せしは委員諸氏の功労なりとて、感謝の挨拶を述べたり、同会の収支決算如左
    収入の部
 現金寄附             一七六、三八六・三〇
 広告にて寄附             一、二六七・〇八
 現金利子収入               五三三・七〇
  合計               一七八、一八七・〇八
    支出の部
 事業費(十二口合計)     一四三、五五六・一三
 使用人其他慰労手当           五〇〇・〇〇
 印刷・郵税其他諸費           二八五・一三
  合計              一四五、七一三・一九
  差引残金三万二千四百七十三円八十九銭は、寄附金者に配布すべき報告書費を差引たる者
今後不測の災害に際し応急の基金として東京市養育院に指定寄附となし、而して右基金より生ずる利息は之れを同院経常費に使用するを得せしむる旨を青渊先生より満場に諮りし所、一同異議なく賛成し、之れを委員に委任する事となり、同会は之れにて事業の一段落を告げ、同三時散会せり
(『渋沢栄一伝記資料』第31巻p.227掲載)

参考:東京市史稿 変災篇第3 目次
東京都公文書館
http://www.soumu.metro.tokyo.jp/01soumu/archives/0601hensai03.htm