是日、フランス共和国人アルベール・カーンの出資により、カーン海外旅行財団設立せられ、栄一其商議員を請託せらる。在任歿年に及ぶ。
出典:『渋沢栄一伝記資料』 3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代 明治四十二年−昭和六年 / 1部 社会公共事業 / 3章 国際親善 / 3節 国際団体及ビ親善事業 / 7款 カーン海外旅行財団 【第36巻 p.160-164】
アルベール・カーン(Albert Kahn, 1860-1940)はフランスの実業家で、「世界の人々がお互いを理解することは平和の基礎になる」との信念のもと、世界旅行のための奨学金制度(Albert Kahn travelling fellowship)を創設した人物です。また、カーンはカメラマンを育成、世界各地でカラー写真や映像を撮影、約8万枚の写真と100時間に及ぶ映像フィルムを残しています。
渋沢栄一とカーンの出会いは1897(明治30)年、カーンが兜町の渋沢事務所を訪問したことに始まります。1902(明治35)年の栄一訪欧の折には、カーンは私邸に栄一を招待。さらに1908(明治41)年のカーン再来日に際しては栄一はカーンを飛鳥山邸に招待、実業家同志の親交を深めています。
そのアルベール・カーンの出資により1913(大正2)年3月22日に設立された団体が「カーン海外旅行財団」です。渋沢栄一は設立当初より同財団の商議員に選出され、没年に至るまで務めています。カーン海外旅行財団は「相当の智識経験ある学者をして海外諸国に旅行し、その国々の一般の状態および人民生活の状況を視察し、もって自国の教育に資せしむる」ことを目的に掲げ、次のような選定基準で研究者らを世界に送り出しました。
- 期 限 : 1年。旅費の節約等で1年以上にわたるも可。ただし2年以上になる場合は商議員会承認が必要
- 旅行地 : ヨーロッパ諸国・北米合衆国・中国・インドエジプトを主要とする
- 旅行者 : 経済学・社会学・哲学・法学・史学・文学もしくはこれと類似の学科を修めた者の中から選定
- 旅行者 : 通例、現に帝国大学の教職に在るか、もしくは大学院に就学中の者の中から選定
- 旅行者 : 帰朝後速やかに報告書を本財団に提出する必要あり
『渋沢栄一伝記資料』第36巻p.160-161に再録された「カーン海外旅行財団寄附行為(運営規則)」「商議員就職解任規定」からは、同財団の目的、名称、活動概要などを読み取ることができます。
カーン海外旅行財団寄附行為
第一条 本財団ハ相当ノ智識経験アル学者ヲシテ海外諸国ニ旅行シ、其国々ノ一般ノ状態及人民生活ノ状況ヲ視察シ、以テ自国ノ教育ニ資セシムルヲ目的トス
第二条 本財団ハ法人トシ、カーン海外旅行財団ト称ス
[中略]
カーン海外旅行財団商議員就職解任規定
第一条 本財団ハ左ノ諸員ニ請テ本会ノ商議員トス
一、現ニ文部大臣ノ職ニ在ル者
二、現ニ東京帝国大学総長ノ職ニ在ル者
三、現ニ京都帝国大学総長ノ職ニ在ル者
四、現ニ宮内省勅任官ノ職ニ在ル者一人
五、帝国大学教授又ハ名誉教授一人
六、在朝ト在野トヲ問ハス名望信用重キヲ世上ニ為ス者三人、内一人ハ成ルヘク金融事業ニ関係アル者トス
七、基本金寄附者ノ代表者一人
[中略]
第七条 本財団最初ノ商議員中、奥田義人ハ第一条第一号、
ハ第二号、久原躬弦ハ第三号、山口鋭之助ハ第四号、富井政章ハ第五号、伯爵大隈重信・男爵渋沢栄一・小松原英太郎ハ第六号、子爵末松謙澄ハ第七号ニ依ルモノトス
大正二年三月二十二日東京ニ於テ
仏国巴里リユー・ド・リセリユー百二番地
アルベール・カーン代理人
東京市芝区西久保城山町四番地
末松謙澄
○昭和六年八月以降ニ印刷サレタル当財団寄附行為印刷物ノ初頭ニ「本財団ハ仏国人アルベール・カーン氏ノ出資ニ依リ大正二年三月二十二日ニ設立セラレタルモノナリ」ト註記シアリ。
(別筆・貼紙)
(『渋沢栄一伝記資料』第36巻p.160-162掲載)
参考:Albert Kahn - Musée et Jardins
http://www.albert-kahn.fr/
【企画展】渋沢栄一とアルベール・カーン 〜日仏実業家交流の軌跡〜
〔渋沢栄一記念財団 渋沢史料館〕
http://www.shibusawa.or.jp/SH/1004/2010sa/index.html