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情報の扉の、そのまた向こう

公益財団法人渋沢栄一記念財団情報資源センターがお送りするブログです。
渋沢栄一、社史を始めとする実業史、アーカイブズや図書館に関連する情報をご紹介しています。

 『日本蚕糸業史』全5巻の全体像

 1892年(明25)創設の業界団体である大日本蚕糸会は、皇室の保護のもとに発展した蚕糸業史を昭和天皇即位記念として全5巻にまとめ編纂し、1935年(昭10)から翌年にかけて刊行しました。第5巻掲載の「日本蚕糸業史刊行顛末」によると、昭和天皇即位記念事業として全国の蚕糸家と製糸家から繭と生糸の寄付を募り、15種の絹織物を製造して皇室に奉納したそうです。その事業経費の余剰金を蚕糸業史刊行にあて、更に片倉製糸紡績の片倉兼太郎の寄付により刊行事業が完結しました。
 執筆には蚕糸業界の第一人者が本業の傍らに当りましたが、編纂刊行期間は当初計画の2年を大きく上回り6年半かかりました。最も多く執筆した藤本実也(ふじもと・じつや、1875-1970)は生糸貿易史研究の農学博士で、『富岡製糸所史』、稿本『原三渓翁伝』を始め蚕業に関する多くの著作があります。他の著者もそれぞれ蚕業に深く関わっていることが肩書からわかります。
 なお、初版全5巻は国立国会図書館デジタルコレクションに入っており、本文は国立国会図書館および図書館送信参加館の館内で閲覧することができます。また全5巻の再版(復刻版)が1985年(昭60)に鳳出版から刊行されています(発売:湘南堂書店)。

『日本蚕糸業史』全5巻の構成、各稿の著者、発行年

タイトル著者(肩書)(*)初版発行年月NDL目次(**)
1日本蚕糸業史総論藤本実也(横浜生糸検査所嘱託)1935.02
(総論)宮中御養蚕史本多岩次郎(農学博士、大日本蚕糸会理事・副会頭、東京高等蚕糸学校長)×
生糸貿易史. 第1〜6章藤本実也(前出)×
2製糸史藤本実也(前出)1935.04
生糸貿易史(続). 第7章藤本実也(前出)×
3蚕種史大沢孝三(農林省蚕業試験場技師)1936.02
養蚕史増井芳男(東京高等蚕糸学校教授)×
4栽桑史遠藤保太郎(農学博士、上田蚕糸専門学校教授)1935.06
政策史明石弘(農林省蚕糸局蚕業課長)×
5学術史平塚英吉(農学博士、農林省蚕業試験場長)1936.12
年表早川卓郎(日本蚕糸業史刊行委員会幹事、大日本蚕糸会職員)×
引用書目×
日本蚕糸業史刊行顛末長岡哲三(日本蚕糸業史刊行委員会主事)×
日本蚕糸業史刊行事務概要早川卓郎(前出)×
(*) 肩書は第5巻「日本蚕糸業刊行事務概要」に記載された、日本蚕糸業史刊行委員会設置時のもの
(**) 目次の閲覧方法
国立国会図書館デジタルコレクションに入っている『日本蚕糸業史』の書誌情報には詳細目次が掲載されていますが、各巻とも巻頭にある前半の稿の目次しか採録されていないため、後半の稿の目次は確認することができません(2014.04.08現在)。
当ブログのエントリーでは、全5巻の抜粋目次をご覧いただくことができます。全5巻の詳細目次は、2014年4月に公開予定の「渋沢社史データベース(SSD)」に掲載されます。

『日本蚕糸業史』全5巻の編集方針

 第5巻の「日本蚕糸業史刊行事務概要」に記載された編集方針は次の通りです。

(イ)蚕糸業史資料を出来得る限り各方面より蒐集し、之を系統的に編集すること。
経済史論的に筆者の主観によって、蚕糸業の進化過程を論述することは第二義に置き、客観的に史実を判断し、なるべく「生」のまゝ系統ある配列をなし、本書の利用者をして、自由に自己の判断考察を加え得る様編纂すること。
(ロ)記事は上古より起し、出来得る限り最近まで記述すること。
(ハ)記事は日本本土に限定し、必要止を得ざる場合の外は、朝鮮・台湾を含ましめぬこと。

参考リンク