解題
工学博士佐野利器(さの・としかた、1880-1956)の追想録。山形県の旧家山口家に生まれた利器は、中学時代に佐野家の養子となり、仙台の第二高等学校(現・東北大学)に進学。1900年(明治33)東京帝国大学工科大学に入学し、辰野金吾教授率いる建築学科に学ぶ。大学院在学中に同大講師を委嘱され、1906年(明治39)米国出張でサンフランシスコ地震の被害調査を行い、同年助教授となる。1910年(明治43)から3年間鉄骨研究のため英国、米国、ドイツ、イタリアに留学。1915年(大正4)工学博士、1918年(大正7)から1929年(昭和4)まで東京帝国大学工科大学教授。その後も1941年(昭和16)まで講師を務め、通算37年間東京帝大の職にあって多くの子弟を育てた。退官後も東京工業大学、日本大学で教えると共に、建築・教育関係の各種団体役員を歴任。生涯にわたる耐震構造に関する研究、育英事業の振興、住宅都市政策での功績は大きい。
本書は佐野の一周忌に当たり関係者が編纂したもので、巻頭の写真集には建築家田辺淳吉ら同級生とのスナップもある。続く本文は6つの部分からなり、「1.述懐」は1954年(昭和29)頃に佐野が生立ちから晩年までの活動を語った自伝で、渋沢栄一の要請で1929年(昭和4)から3年間清水組で実務に就いたことにも触れている。次の100ページ近い「2.思い出」は、清水建設社長清水康雄を含む関係者55人から寄せられた追悼文で、筆者50音順に掲載。「3.病患・終えん・葬儀・余栄」には、社団法人日本住宅協会会長渋沢敬三からの弔辞も含む。「4.筆のあと」は佐野の書簡9通を再録したもの。「5.学術上の業績」には主要著書・論文一覧を載せ、そのうち17点には概要も付している。「6.略歴」は学歴および職歴を年代順に列記したもの。コンパクトだが布張りの丁寧な装丁。
[利器の読みには「トシキ」「リキ」もあり]
書影
目次
項目 | ページ |
---|---|
佐野利器博士 [小伝] | 巻頭 |
[写真集] | 巻頭 |
遺影/学生時代/家族と共に/同窓の人々/大学の卒業式/各界におけるあとをたずねて/戦時中の博士/博士の挙動/博士の家/筆跡その他 | |
偲び、惜み、仰ぐ [序] / 編集委員 | 1 |
目次 | 3 |
1.述懐 | 1 |
(1)生立、学生時代 | 1 |
生立/中学時代/佐野家/大学時代 | |
(2)東大を中心としての活動 | 7 |
講師拝命/研究について/加州地震/建築界の3巨頭/建築教育について/日本に於ける鉄筋コンクリートの歴史/議院建築について/其の頃関係した建築/外国留学/明治神宮造営計画/議院建築の其後/都市計画・建築行政/宮内技師特命 | |
(3)関東大震火災の頃、耐震構造の進歩 | 22 |
関東大震火災/東京市建築局長となる/学術界の状況/東京工業大学創設について | |
(4)東大退宮以後 | 28 |
清水組の事/建築学叢書/日本大学工業学園/満州国/度量衡/東京市庁舎の問題 | |
(5)団体関係 | 33 |
学会のこと/教育について/国語問題/東京市政調査会 | |
あとがき | |
2.思い出 | 39 |
故佐野利器会員追悼の詞並に略歴 / 日本学士院会員 田中豊 | 39 |
佐野博士の達識に思う / 朝倉希一 | 41 |
御冥福を祈る / 伊藤滋 | 42 |
追憶 / 伊藤文四郎 | 43 |
温容眼にあり / 飯沼一省 | 45 |
佐野先生 / 石井達郎 | 46 |
佐野先生の想ひ出 / 井下清 | 47 |
佐野先生をおもう / 内田祥三 | 52 |
佐野博士と清水建設 / 小笹徳蔵 | 55 |
佐野利器博士と村山同郷会 / 織田信恒 | 57 |
思ひ出のまゝ / 大山松次郎 | 58 |
人間として偉大な佐野先生 / 鹿島守之助 | 60 |
帝都復興と佐野博士 / 笠原敏郎 | 62 |
佐野利器先生のことども / 岸田日出刀 | 64 |
追憶二、三 / 北沢五郎 | 66 |
佐野先生と明治神宮造営 / 小林政一 | 67 |
私の佐野君追想 / 古宇田実 | 69 |
東京市建築局長としての佐野先生 / 古茂田甲午郎 | 71 |
佐野先生と日大工学部 / 斎藤謙次 | 73 |
佐野利器博士と清水組 / 清水康雄 | 75 |
日本医療団と佐野博士 / 清水幸重 | 76 |
宮内省時代の佐野先生 / 鈴木鎮雄 | 78 |
佐野博士の思い出 / 田中耕太郎 | 81 |
街頭の戦士 / 田辺定義 | 82 |
佐野先生と私 / 高橋貞太郎 | 84 |
佐野先生を憶う / 竹内六蔵 | 86 |
恩師と一弟子 / 戸田利兵衛 | 87 |
佐野先生の思い出 / 富永長治 | 89 |
建築構造学の元祖佐野博士 / 内藤多仲 | 90 |
佐野博士の昔がたり / 中村伝治 | 92 |
二高時代の思出 / 羽島金三郎 | 93 |
佐野先生の御病歴と御病床生活の事等 / 橋本虎六 | 94 |
佐野博士を憶ふ / 八田嘉明 | 98 |
佐野先生の想いでのうちから / 浜田稔 | 100 |
弟子の気持 / 坂静雄 | 101 |
佐野先生の思出かれこれ / 福田重義 | 102 |
月曜日の夜 / 二見秀雄 | 104 |
生活科学化運動の指導者としての佐野先生 / 藤原勘治 | 106 |
佐野先生と日本教育会の最後 / 古谷敬二 | 107 |
ローマ字運動の大恩人 / 堀内庸村 | 108 |
佐野先生と私 / 前川国男 | 111 |
佐野先生と東京市政調査会 / 前田多門 | 112 |
佐野先生の思い出 / 森井健介 | 115 |
佐野先生と私 / 山下寿郎 | 117 |
先生の面影 / 吉川清一 | 119 |
東京市建築局長時代の活躍 / 吉山真棹 | 121 |
佐野博士の憂国の高風を慕ふ / 渡辺銕蔵 | 122 |
若き日の博士を思ふ / 橘節男 | 124 |
恩師佐野先生を偲ぶ / 谷口忠 | 126 |
追憶 / 中田亮吉 | 128 |
祖父のこと / 武藤清一 | 130 |
着物 / 武藤久子 | 130 |
おじいちやんの思い出 / 武藤光子 | 131 |
酒・煙草・酸素 / 山口正三 | 132 |
追憶断片 / 天沼彦一 | 133 |
3.病患・終えん・葬儀・余栄 | 137 |
4.筆のあと | 148 |
5.学術上の業績:著書・論文 | 151 |
6.略歴 | 160 |
外部機関の所蔵データほか
NDL-OPAC / CiNii Books / Worldcat / NDL Search / Webcat Plus / Googleブックス 1,2
関連エントリー
- [今日の栄一] 1923(大正12)年12月5日 (83歳) 佐野利器の講演 【『渋沢栄一伝記資料』第43巻掲載】
http://d.hatena.ne.jp/tobira/20081205/1228441244
参考リンク
- 渋沢栄一と清水建設株式会社|企画展
〔渋沢史料館|公益財団法人 渋沢栄一記念財団〕
http://www.shibusawa.or.jp/museum/special/2015/kikaku2015_07.html