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公益財団法人渋沢栄一記念財団情報資源センターがお送りするブログです。
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 1913(大正2)年3月12日 (73歳) 中央慈善協会主催歓迎晩餐会でのヘンダーソン教授の演説 【『渋沢栄一伝記資料』第30巻掲載】

是日、日本橋倶楽部に於て、当協会主催によるアメリカ合衆国シカゴ大学教授ヘンダルソン博士歓迎晩餐会開催せらる。栄一之に出席し歓迎の辞を述ぶ。

出典:『渋沢栄一伝記資料』 3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代 明治四十二年−昭和六年 / 1部 社会公共事業 / 1章 社会事業 / 2節 中央社会事業協会其他 / 1款 中央慈善協会 【第30巻 p.465-475】
・『渋沢栄一伝記資料』第30巻目次詳細
http://www.shibusawa.or.jp/SH/denki/30.html
中央慈善協会は、慈善救済事業の調査、慈善団体と慈善家との連絡、救済事業の指導奨励等を目的に1908(明治41)年10月7日に発足した団体で、渋沢栄一は設立当初より同協会の会長に就任しています。
1913(大正2)年3月12日、中央慈善協会が主催となり、来日中のシカゴ大学教授チャールズ・R・ヘンダーソン(Charles Richmond Henderson, 1848-1915)を歓迎する晩餐会が開催されました。ヘンダーソンシカゴ大学では応用社会学を担当、慈善救済事業の宣伝者としても著名な人物で、この時はハーロース講演団の東洋巡回講師としてスイスの万国監獄大会に列席、欧州、インド、中国、朝鮮を経由しての来日でした。(『渋沢栄一伝記資料』第30巻p.473-474掲載、『慈善』第4編第4号(1913.04)「ヘンダルソン博士の来朝と其の使命」より)
晩餐会後ヘンダーソンは別室で講演を行い、その内容は『渋沢栄一伝記資料』第30巻p.467からp.473までの6ページにわたり、『慈善』第4編第4号(1913.04)「中央慈善協会に対する希望数則」からの転載として掲載されています。
ヘンダーソンは講演の冒頭で、人口の都会集中により増大する失業者等救済の必要性を説き、慈善事業は何事についても同情と親切が基礎になければならい、と述べています。続けて各種慈善事業を円滑に進めるうえでの中央慈善協会の役割、事例としてシカゴ市の救済事業で商業会議所が資金調達とともに事業の妥当性を調査・研究していることに言及し、その効果について以下のように紹介しています。

[前略] 斯の如くして商業団の方では市内の慈善事業を能く知りまして、さうして此所の事業が商業団の考へた所の原理に従て経営をして居るといふことであれば、富豪家は大概は寄附を致すのであります。皆とは申しませぬが、大概は出すのである。[中略] 援けて行くべき値打のあるもの、好成績を挙げるものであるならば、それだけの金は必らず出来るといふことを、私共の経験が示して居るのであります。[後略]
(『渋沢栄一伝記資料』第30巻p.470)

また、困窮者が救済を得ることで怠惰に陥ることなく、救済が効果的に行われるための要点を、経験をもとに次のように述べています。

  1. 救済を要する事件の真相をよく知る
  2. 困窮の内容に即した適切な救済処置を行う
  3. 「働くことが出来るのに働かない者は救ふべからす」の姿勢のもと、労働者を訓練するだけでなく、慈善事業を行う側にも「救済がいかに行われるべきか」を教育する
  4. 家族制度を重視。子供は親の元で養育し得るように手助けをする
  5. 防貧事業を重視。病気や貧困を事前に防ぐ為の世論を喚起する
  6. 怠惰な習慣を作らないよう、幼少時より実業上の事柄について教育を施す
  7. 労働保険の必要性
  8. 国民福利増進大会の設置

ヘンダーソンは長い講演の締めくくりとして、このような団体が作られ国家福利が増進するよう、また“財産や地位に恵まれた人々は、貧窮する人々のために資金を提供しあい、国家が全体として健全に維持されるようになるべきである、そういう考えに到達してほしい”、との希望を述べています。
この講演に対し、栄一は「今回実業界からの出席が少なく寂しい限りだが、今後はヘンダーソン博士の演説を指南として実業界からの参加者も徐々に増やし、数年後には中央慈善協会を博士がお示しになられたような位置に進めてゆきたいと思う」(『渋沢栄一伝記資料』第30巻p.465-466より編集)という趣旨の謝辞を述べています。
参考:民間慈善事業の萌芽と中央慈善協会の設立
〔100年のあゆみ〜明治期〜 - 全国社会福祉協議会
http://www.shakyo.or.jp/anniversary/history/meiji.html
Guide to the Charles Richmond Henderson Papers 1902-1910
〔University of Chicago Library〕
http://ead.lib.uchicago.edu/view.xqy?id=ICU.SPCL.HENDERSON&c=h