是日栄一、東京市会議員を当院大塚本院及び巣鴨分院に案内し、当院の沿革と現状並に将来の計画に就き詳細に説明す。同四年五月十三日再び市会議員を当院に招じて同様の説明をなす。
出典: 『渋沢栄一伝記資料』 3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代 明治四十二年−昭和六年 / 1部 社会公共事業 / 1章 社会事業 / 1節 東京市養育院其他 / 1款 東京市養育院 【第30巻 p.148-166】
・『渋沢栄一伝記資料』第30巻目次詳細
http://www.shibusawa.or.jp/SH/denki/30.html
1913（大正2）年3月13日、東京市養育院院長の渋沢栄一は東京市の市会議員らを招き、養育院の起源と変遷、また資金調達と将来の展望などについて詳細な演説を行っています。それによると、養育院の資金源は以下のように変遷しています。
養育院の資金調達の変遷
- 江戸町会所の七分積金＝共有金 （〜1883(明治16)年）
1870（明治3）年頃からロシア皇族来日に先立ち、窮民を一箇所に集めた。費用は七分積金を引き継いだ共有金から供出。その後、東京府の管轄となる。 - 民間からの寄付 （1884-1889(明治17-22)年）
1883（明治16）年に東京府が養育院廃止を決定。栄一は私設化による存続を計画、東京府に基金提供を依頼、さらに婦人慈善協会等を設立、民間からの寄付を募る。 - 東京市からの給付金と民間からの寄付 （1889(明治22)年〜）
栄一の働きかけで養育院は市の管轄に。財源は基金からの利息と民間からの寄付、東京府・東京市からの給付金。
この演説の中で、栄一は現在も資金調達が困難であることを訴え、シカゴ大学ヘンダーソン教授の講演についても次のように言及、東京市からのさらなる援助への期待をやんわりと語っています。
[前略] 過日日本橋倶楽部に於て、頃日米国より来遊せし「アンダーソン」[ヘンダーソン]氏から、亜米利加に於ける救済事業の経過を鄭寧に話して貰ひましたが、「シカゴ」の町の窮民救助に対する費途は一年に七百万弗（千四百万円）を費すと言うて居りました、少し豪いやうに思ひますが、[中略] 其十分の一でも東京市で掛けて下すつたならば、立派にならずとも相当の事は出来ると思ひます [中略] 将来は己の遺産は皆養育院にと云ふ按排に、金満家がドンドン出して下さると、「シカゴ」何んのその--と云ふこともありませうけれども、今数年の間はそれを頼んで居る訳にも参りませぬから、何とか資金をもう少し集めることを心配したいと思ひます、[後略]
（『渋沢栄一伝記資料』第30巻p.161、『九恵 : 東京市養育院月報』第146号（1913.04）p.1-21より）
また、演説の終わりでは、栄一自身が養育院院長として毎月13日の出勤を自らの義務と定め、また市議らを招待する日を13日に設定した理由について、共有金の起源となった松平定信の改革に言及し、次のように説明しています。
[前略] 何故十三日を選んだかと申しますれば、[中略] 共有金と云ふ者は寛政度 - 天明七年に松平越中守が [中略] 大決心を以て幕政の改良を企てゝ、身を以て犠牲に供して祈つたのです、それはなかなかの覚悟であつたやうです、若し此事が行はれなければ神は私を罰して呉れ、私のみならず妻子眷族までを罰して呉れと云ふことが書いてあります、それも世間へ披露したのではありませぬ、[中略] 全く密に本所の吉祥院と云ふ寺院に其の誓書を納めたのです、どうしてさう云ふ書類が遺つて居りましたか、維新後になつてそれが現れて出て来たのです、越中守はそれ程の覚悟で以て六・七年の間政治を執つた、[中略] 此定信が五月の十三日に死なれました、而して江戸市中の共有金と云ふものは此定信の善政が本になつて出来ましたので、其共有金があつたに付て養育院が創まつたのです、さう云ふ縁故もありますし、[中略] これを偲ぶには寧ろ斯う云ふ場所が宜からうと思うて、それで十三日を必ず紀念として毎月本院に参ります [中略] さう云ふ都合で今日即ち十三日に [市議の皆さんに] 御出でを願ふたのでございます [後略]
（『渋沢栄一伝記資料』第30巻p.162-163掲載、『九恵 : 東京市養育院月報』第146号（1913.04）「本院の沿革と現状（院長 渋沢栄一）」より）
参考：「松平定信公生誕２５０年・戊辰戦争１４０年記念事業」をお知らせします。
〔白河市公式ホームページ〕
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