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公益財団法人渋沢栄一記念財団情報資源センターがお送りするブログです。
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 1912(明治45)年5月18日 (72歳) 渋沢栄一、大日本平和協会主催「ヘーグ・デー」で講演 【『渋沢栄一伝記資料』第35巻掲載】

是日、当協会主催ヘーグ・デー、基督教青年会館に開かる。栄一出席して演説をなす。

出典:『渋沢栄一伝記資料』 3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代 明治四十二年−昭和六年 / 1部 社会公共事業 / 3章 国際親善 / 2節 米国加州日本移民排斥問題 / 7款 日本平和協会 【第35巻 p.501-506】
・『渋沢栄一伝記資料』第35巻目次詳細
http://www.shibusawa.or.jp/SH/denki/35.html

1912(明治45)年5月18日、大日本平和協会の主催で「ヘーグ・デー」が開催されました。渋沢栄一は協会の名誉評議員としてこの日に講演を行い、実業界から見た平和について次のように述べています。

[前略] 実業界から此問題を論ずると明治四十五年の今日までに兎角実業界の連中には、平和で無かつた場合に国の富力が増したとか、商売が伸長したとかいふ誤解がある、誤解ぢやない、事実がある、それで此平和といふ問題に対して一寸迷ひを惹起す、[中略] 併しながらこれは其人の誤解と私は言はなければならぬ[。] 戦争の為に富が増したと思ふのはそれは経済上の真理を知らぬ申分であつて、寧ろ皆無と言はなければならぬ、[中略] 然らば何故跡で商工業に景気附くかと言へば国に変化があるから変化の為に生ずる動揺である、[中略] 見た所では活気が生じた様だがこれは所謂空中の活気だらう、賞めた話でない[。] 既に活気を生ずるから事業に景気が附く、従て貧富の懸隔が強くなつてくる、俄に富む者が出来るから浪費も多くなつてくる。それは畢竟戦争の関係からして現はして来る形状であつて、其以前に於て事実の働きが強ければ、戦争以後に進み得た様に見える、若し反対に戦争前に追々に国家の実力が衰へて居つて、生産力も乏しく産業上の数額が減じて尚且つ戦争に遭遇したといふならば、或る僅少の部分には変化の為に利益するものがありとするも、其部分甚だ少くして損害した人が頗る多い、為に必ず創痍といふものが数年経ても健全に復することは出来ない [中略] 戦争は富を増すとか、戦争は商売を繁昌さすとかいふことは、実に妄言である、誠に誤りであるといふことは私が茲に長々とお話せぬでも明かであらうと思ふ、[中略]
更にモウ一つ平和といふことに付て、私の考へて居るのは国内の事と国際間に生ずる事とは此平和に差がある様な感じを惹起す、例へば自国の商売に付てはお互に譲り合うが宜いけれども他国に対しては、富は取り得だ、利益は得次第だといふ様な観念が兎角に生じ易い、[中略] 例へばスエズ・カナルのことに付て英吉利の当時の宰相が即決して力を入れたといふ昔話を、国際間であると、隣国の心付かぬ間にそれを取つたのは大層の働きだと賞讃する、もし個人として見るならば甚だ不道徳であるといふ如きことが間々聞える、若し此等の行為を国際間に拡張して行くならば、国内の平和は前に言ふ通りであるが、国際間は隣の気附きのない所を附狙う、隣の及ばぬ所を押倒すといふことであつたならば、結局平和を完全無欠に行ふことは出来ぬではありますまいか、これは最も講究をせねばならぬ所であらうと思ひます、[中略]
今日我邦の有様は唯力あるのみである、其力といふものは武力に由るものである、富の力は国民多数がどうかするであらうといふ空ら頼みを以て政府は只管武力を増すことを勉めるのは或は私が失言の様であるけれども平和の妨害者といふも、敢て諸君に御不同意はなからうと思ふのでございます、[中略] 我々が実業界から望む所からし政治界・軍事界其他の方面からも十分に観察を尽される様に、御集りの諸君にも御尽力を願ひたいと思ひます。[後略]
(『渋沢栄一伝記資料』第35巻p.502-506掲載、『竜門雑誌』第289号(1912.06)p.39-45より)

「ヘーグ・デー(ハーグ・デー)」とは、オランダのハーグ(Den Haag)で1899(明治32)年5月18日に開催された万国平和会議(ハーグ平和会議)を記念する日で、大日本平和協会の発会式も1906(明治39)年のヘーグ・デーを期して挙行されています(『阪谷芳郎伝』(故阪谷子爵記念事業会, 1951)p.584)。
参考:国際協調型平和運動 - 『大日本平和協会』の活動とその史的位置 -
同志社大学学術リポジトリ
http://elib.doshisha.ac.jp/cgi-bin/retrieve/sr_detail.cgi?U_CHARSET=utf-8&CGILANG=japanese&ID=TB10157230&SUNO=&HTMLFILE=sr_sform.html&SRC_BODY=1&PID=&CHILD=