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公益財団法人渋沢栄一記念財団情報資源センターがお送りするブログです。
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 渋沢栄一『雨夜譚』 【岩波書店,1984】

書誌事項

雨夜譚 / 渋沢栄一述 ; 長幸男校注
 東京 : 岩波書店, 1984.11
 338p ; 15cm (岩波文庫
 注記: タイトルヨミ: アマヨガタリ

解題

1887年(明20)に渋沢栄一は子弟たちに請われ、幼時より激動の時代を走り抜けて大蔵省退官に至るまでの前半生を、四夜にわたり活き活きと語った。その筆記本に栄一は1894年(明27)「はしがき」を寄せ、これを「雨夜譚(アマヨガタリ)」と名付けた。この「雨夜譚」は栄一の還暦を祝して編纂された『青淵先生六十年史』(竜門社、1900)に栄一の足跡に沿った形で原文のまま引用された。その後「雨夜譚」筆記本は失われ、一方で『六十年史』の切り抜きを合綴した1冊が残り、それに筆記本との照合が記入されていた。この合綴本を底本として『渋沢栄一伝記資料別巻第5』(1968)の「雨夜譚」原稿が作られた。この『伝記資料別巻第5』を底本とし、先の合綴本を参照して岩波文庫として刊行されたのが本書である。本文の見出しは『青淵百話』(同文館、1913)を底本として追加されている。また本文末尾に「財政改革に関する奏議」が追加されており、これは1873年(明6)栄一が大蔵省を退官する際に提出したもので、『渋沢栄一伝記資料第3巻』(1965)を底本としている。
本書後半には「雨夜譚」以降の栄一の実業界での足跡を概観する資料として、栄一が語った「維新以後における経済界の発達」が収録されている。これは国家学会創立30周年を記念して同会が発行した『明治憲政経済史論』(1919)に寄稿したもので、大蔵省出仕前後及び実業界における栄一の経済近代化への貢献について概要が述べられている。
巻末に経済学者長幸男による詳細な校注と解説を付す。なお初刷標題紙に「渋沢栄一述」と記載されていたが、1988年5月刊行の第3刷からその記載が無くなり、新たにサブタイトル「渋沢栄一自伝」が付された。また「雨夜譚」は「ウヤタン」「ウヤモノガタリ」と読まれる場合がある
[「雨夜譚」は英訳が1994年に、ロシア語訳が2002年に出版されている]
『雨夜譚』表紙、カバー
*左が初刷の表紙、右が3刷のカバー

目次

項目ページ
凡例3
目次5
図版一覧7
雨夜譚9
  雨夜譚 はしがき11
  雨夜譚 巻之一14
余が少年時代15
立志出郷関28
  雨夜譚 巻之二47
浪人生活51
一橋家出仕67
兵隊募集の苦心89
産業奨励と藩札発行102
  雨夜譚 巻之三107
幕府出仕115
外国行124
  雨夜譚 巻之四144
帰朝と形勢の一変146
静岡藩出仕と常平倉155
明治政府出仕167
  雨夜譚 巻之五171
在官中の事業173
退官と建白書196
  財政改革に関する奏議200
維新以後における経済界の発達211
  第1節 緒言215
  第2節 貨幣制度の整理226
1 貨幣条例の制定 / 2 金本位制の確立
  第3節 公債の沿革230
  第4節 銀行の発達231
1 銀行制度に関する論争 / 2 第一国立銀行の創立 / 3 国立銀行営業上の困難と銀行条例の改正 / 4 銀行紙幣および政府紙幣の膨脹とその整理 / 5 中央銀行の創立と国立銀行紙幣発行権の廃止 / 6 横浜正金銀行その他特殊銀行の発達 / 7 手形交換所の発達
  第5節 会社企業の発達253
1 製紙業 / 2 保険業 / 3 株式取引所 / 4 紡績業 / 5 海運業 / 6 陸運業 / 7 会社創業の困難
  第6節 結言263
  (付録)統計表265
校注293
解説 / 長幸男317
  1 「雨夜譚」のなりたち317
  2 時代の児321
  3 論語と実業326

岩波文庫『雨夜譚』底本一覧(成立・発行年順)

成立/発行年タイトル著編者(出版者)本文収載位置、本文との関係
1873(明治6)財政改革に関する奏議渋沢栄一p200〜「雨夜譚」巻之五末尾
1887(明治20)「雨夜譚」筆記本渋沢栄一p14〜
1894(明治27)「雨夜譚」はしがき渋沢栄一 [『竜門雑誌』81号(1895年2月)p24-27に掲載]p11〜
1900(明治33)青淵先生六十年史竜門社編(竜門社)本文・別巻5の底本
1913(大正2)青淵百話渋沢栄一同文館見出しの底本
1919(大正8)明治憲政経済史論国家学会編(国家学会)p211〜
1965(昭和40)渋沢栄一伝記資料第3巻渋沢青淵記念財団竜門社編(渋沢栄一伝記資料刊行会)「財政改革に関する奏議」の底本
1968(昭和43)渋沢栄一伝記資料別巻第5渋沢青淵記念財団竜門社編(渋沢青淵記念財団竜門社)本文の底本

「雨夜譚」の読み方の変遷

年次読み方と出典
1894『竜門雑誌』81号に掲載された渋沢栄一による「雨夜譚はしがき」には、「アマヨガタリ」と振り仮名あり(本文の日付は1894年12月、掲載は1895年2月)
1900『青淵先生六十年史』(竜門社)には「はしがき」は収載されておらず、本文の「雨夜譚二曰ク」に振り仮名は無い
1913玉利伝十著『雨夜物語』(択善社)が出版され、「うやものがたり」と読むことができる(内容は「雨夜譚」ではない)(岩波文庫『雨夜譚』p317)
1926〜1930「雨夜譚会」開催、「ウヤタンカイ」と呼ばれる。「雨夜譚会談話筆記」は「ウヤタンカイダンワヒッキ」と呼ばれる(岩波文庫『雨夜譚』p320)
1931渋沢栄一
1932岡田純夫編『渋沢翁は語る』(岡田純夫)収載の渋沢栄一著「雨夜譚序」では、「うやものがたり」と振り仮名あり
1968渋沢栄一伝記資料別巻第5』談話(一)収載の「雨夜譚」および同「はしがき」には、振り仮名なし
1981『日本人の自伝 1』(平凡社)収載の「雨夜譚」は目次に「うやものがたり」と振り仮名(底本は『渋沢栄一伝記資料別巻第5』)
1984長幸男校注『雨夜譚』(岩波文庫)では、『雨夜譚』は渋沢一族では「ウヤタン」でとおっていること、「ウヤモノガタリ」のヨミもあることを紹介しつつ、栄一の「雨夜譚はしがき」のヨミを尊重し「あまよがたり」と読んでいる(p317-318)
1994英訳本"The autobiography of Shibusawa Eiichi"(University of Tokyo Press)でのローマ字表記は"Amayo-gatari"
1997渋沢栄一 : 雨夜譚/渋沢栄一自叙伝(抄)』(日本図書センター)目次の振り仮名は「うやものがたり」
1998石井浩解説『雨夜譚余聞』(小学館)の振り仮名は「あまよがたりよぶん」

外部機関の所蔵データほか

NDL-OPAC / CiNii Books / Worldcat 1,2 / NDL Search / Webcat Plus / Googleブックス 1,2

参考リンク