是日、東京府北多摩郡狛江村玉翠園前に於て、再建玉川碑の除幕式挙行せらる。栄一出席して「玉川碑除幕式に参列して」と題して講演をなす。
出典：『渋沢栄一伝記資料』 3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代 明治四十二年−昭和六年 / 1部 社会公共事業 / 9章 其他ノ公共事業 / 4節 史蹟保存 / 7款 玉川史蹟猶興会 【第49巻 p.354-358】
・『渋沢栄一伝記資料』第49巻目次詳細
http://www.shibusawa.or.jp/SH/denki/49.html
玉川碑とは、白河藩主松平定信（まつだいら・さだのぶ、1758-1829。号は楽翁：らくおう）の揮毫による万葉集の一首が刻まれた碑で、初代の碑は文化2（1805）年に建造され、文政12（1829）年に洪水で流され消失しています。1922(大正11)年、その失われた碑の拓本を発見した羽場順承が碑の再建を企図して玉川史蹟猶興会を設立、1924（大正13）年に再建が成り、4月13日に除幕式が開催されました。
松平定信の人格に敬服してその功績を広く一般に広めるよう努めていた渋沢栄一は、玉川史蹟猶興会の顧問となり、碑の再建を支援しています。
栄一は猶興会の設立に先立ち開催された玉川史跡講演会で、「歴史は誠に大切なものである、歴史を知り歴史を残し、過去によりて偉人の功績を偲び、そこに文化の華と実とを求める、これが私の歴史観であります。」（『渋沢栄一伝記資料』第49巻p.346）と自らの歴史観を述べ、また除幕式の演説の中でも歴史記録の大切さ、碑の存在意義等について次のように述べています。
[前略] この古蹟の保存といふ事は国民精神の感化の上から申しましても、文化の発達の上から申しましても、非常に大切なことで初めこの保存された古蹟の建てられた時代と、現在大正の時代とは星移り物変りては居りますが、現在から当時の時代を委しく且つ親切に知るといふ事は誠に歴史的に興味のある問題であると同時に、また当時の文化を受け継いで来た私共の当然なさねばならない仕事の一つであります。
[中略] 古い事物の記録を重んずるといふことは文化発達の道程には違ひありませんが、私はたゞ大きな石がこゝの村に在る、立派な鎮守がこゝの村に在るといふその事だけが、私共のもつ誇りのすべてではないと存じます。[中略] その在る石、その在る建物、その在る物がどんな由来をもつものか、またその事実から私共がどんな感化影響を受けるかといふ事をはつきりと見極めて、それを心の糧として行く場合に初めてそれが尊いものになるので御座ります、
[中略] 幸ひ此の私の私淑する公が遺跡のこの地にあるを知り、私も微力乍ら力をお添へした次第ですが、仕事も順調に運び、けふ此の立派な玉川碑を見ることが出来ましたのは、まことに嬉しさの限りです、[後略]
（『渋沢栄一伝記資料』第49巻p.355-357、「渋沢栄一演説筆記 大正十三年四月十三日 玉川碑除幕式に参列して」より）
『渋沢栄一伝記資料』第49巻p.342-358には、玉川碑再建の経緯がさまざまな文献からの引用として紹介されています。また山口律雄、清水惣之助編『渋沢栄一碑文集』（博字堂, 1988.11）p.50-54には、再建された碑の写真、渋沢栄一撰書による碑陰記の択影などが「多摩川万葉歌碑」のタイトルのもとに紹介されています。
参考：玉川碑
〔こまえの文化財 - 狛江市〕
http://www.city.komae.tokyo.jp/index.cfm/11,3437,102,282,html
歌碑が語る悠久の時（東京都狛江市） : 平成万葉集
〔YOMIURI ONLINE（読売新聞） - 2008年7月29日〕
http://www.yomiuri.co.jp/man-yo/20080728-OYT8T00385.htm
山口律雄、清水惣之助編『渋沢栄一碑文集』（博字堂, 1988.11）
〔ミュージアムショップ 取扱商品のご案内 - 渋沢栄一記念財団 渋沢史料館〕
http://www.shibusawa.or.jp/museum/store/tyosaku04.html
稲葉和也著『玉川碑関係史料及び論考集』
〔国立国会図書館サーチ〕
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000010837876-00
研究課題 玉川碑関係史料及び論考集
〔研究助成成果リスト 2009年 (8件) Vol.31 - とうきゅう環境浄化財団〕
http://home.q07.itscom.net/tokyuenv/ab-gaiyo09/kazuya-inaba.htm
更新履歴
2011.04.13：「参考」に『玉川碑関係史料及び論考集』に関するリンクを2件追加
