是日、当協会第一回理事会、築地精養軒に開かれ、栄一出席す。
出典:『渋沢栄一伝記資料』 3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代 明治四十二年−昭和六年 / 1部 社会公共事業 / 3章 国際親善 / 3節 国際団体及ビ親善事業 / 13款 社団法人国際聯盟協会 【第36巻 p.391-396】
社会と救済 第四巻第二号・第八六頁 大正九年六月一五日
○国際聯盟協会成立
国際聯盟の成立と共に、欧洲各国にては民間有志に依りて聯盟協会を組織し、国際関係に多大の威力を発揮し居れり。我国にても之を単に政府当局のみに一任せず、民間各方面の有志を網羅し、国民的なる聯盟協会を組織するの緊切なるを、過般来識者間に唱導せられ居りしが、遂に去月二十三日午後五時より当市築地精養軒に於て、民間有力者・官吏・実業家・新聞記者等の有志合同して発起人会を開き、渋沢男爵を座長となし、会則其他諸般の事項を議決して、愈々国際聯盟協会の成立を告げ、九時半散会せり。尚ほ同日会長に渋沢男爵、副会長に阪谷芳郎男・添田寿一博士の二氏を推し、理事に井上準之助氏以下十一名、其他評議員四十六名を選定せり。
[後略]
(『渋沢栄一伝記資料』第36巻p.369)
渋沢栄一は1920(大正9)年4月23日の国際聯盟協会発起人会で推されて会長に就任、没年に至るまで熱心にその活動に取り組みました。同年9月13日に開催された首相官邸招待会の演説の中で、栄一は会長就任を承諾した意図について次のように述べています。
国際聯盟 第一巻第一号・国際聯盟協会々報 第二六―三一頁大正九年一一月
(九)首相官邸招待会
時日 九月十三日 招待者 原首相
来会者 磯村豊太郎 ○外百十五名氏名略ス
[中略]
渋沢会長の演説
[前略] 余の如きものが本会々長の重任を辱しむることは、自ら恐縮致し居る所なるも、大戦中熟々考ふるに、世の中が進めば進むほど戦争の手段が進歩し、益々悲惨の度を加ふるに至り、欧洲先進国も、深く今迄の如き、力づく、智恵づくの国際関係の非なるを悟り、其の考が此度の国際聯盟を成立せしめた所以なるべしと信ず。尤もかゝる点は政治外交の問題にして、吾等門外漢の立入る可き範囲には非ざるべきも、世界平和の維持は、私共弱者の平素痛切に感ずる所なるを以て、双手を挙げて聯盟の成立を祝福せし次第なり。然るに米国が之に加盟せざる為め、聯盟の発達上多大の支障を来せしは、実に遺憾の点なるも、之に就ては先きに「ヴァンダーリップ」氏来遊の際、篤と其の意見を尋ねたる所、十一月の選挙以後ともならば、必ず加盟に決定すべしとの事なりしを以て、聊か心を休め居る次第なり。
欧米各国に民間の有力者が、聯盟の趣旨を貫徹するを目的とする協会を組織せし事は、予て聞き及べる所なるが、五大国の一となりし我国に於ても、識者の責は決して軽しとはいふ可からず。官民一途、大いに聯盟の精神達成の為めに尽力することゝ致し度し、本協会の活動の為めには、或は代表者を聯合会議に派遣し、或は調査設備、事務所事務員、雑誌其他の刊行、外来賓客の接待等の為めに、極く大体を以て申せば十二・三万円の年々の費用を要すべく、之を一定の資金にて調達せんとすれば、二百万円の基本金を要するを以て、此の際特に民間有力者の、御力添を御願致す次第なり。尤も本協会の如き、事業に対しては、政府並に帝室よりも御援助有之事と考へらる。自分に於て会長を承諾致したるも、全くこの基金募集の為にして、余は生のあらん限り協会の為に尽力致し度き決心なり。右の如き次第なるにつき、是非諸君の如き有力者よりの御援助を懇願する次第なり。
(『渋沢栄一伝記資料』第36巻p.401-402掲載、『国際聯盟』第1巻第1号(1920.11)p.26-31より)
発起人会の翌週、4月29日に第1回理事会が開催され、以下の事項が協議されました。(『渋沢栄一伝記資料』第36巻p.391-392)
- 基金募集に関する件・・・広く公衆から一定の基金を募集する
- 総務部、調査部、宣伝部設置の件・・・総務部長:吉井幸蔵、調査部長:阪谷芳郎、宣伝部長:添田寿一
- 事務所に関する件・・・幹事、書記長に一任
- 幹事、有給職員に関する件・・・会長、副会長に一任
- 発会式開催に関する件・・・5月20日前後に開催予定
- 総裁および副総裁に関する件・・・徳川家達公爵を総裁、西園寺公望、大隈重信を名誉総裁に推挙
- 評議員選定の件
『渋沢栄一伝記資料』第36巻p.392-396には、栄一が5月10日開催の第2回理事会、6月7日開催の第3回理事会には病気のため欠席したことが本文注記として、またそれぞれの理事会の協議事項が『国際聯盟』第1巻第1号からの転載として紹介されています。
参考:日本国際連盟協会〜30年代における国際協調主義の展開〜 / 岩本聖光
〔「立命館大学人文科学研究所紀要NO.85」(2005年3月) - 立命館大学人文科学研究所〕
http://www.ritsumei.ac.jp/acd/re/k-rsc/hss/book/ki_085.html