情報資源センター・ブログ

情報の扉の、そのまた向こう

公益財団法人渋沢栄一記念財団情報資源センターがお送りするブログです。
渋沢栄一、社史を始めとする実業史、アーカイブズや図書館に関連する情報をご紹介しています。

 1878(明治11)年8月14日(水) (38歳) 渋沢栄一、択善会で英国銀行家ダニング・マクラウドのクレジットに関する論説を紹介 【『渋沢栄一伝記資料』第5巻掲載】

築地精養軒に於て択善会第十四回の会同開かる。栄一出席し、訳述せしめたる、ダンニング・マクレオド氏憑信説の大旨及び銀行営業上の問答の詳細を演説す。

出典:『渋沢栄一伝記資料』 2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代 明治六年−四十二年 / 1部 実業・経済 / 1章 金融 / 1節 銀行 / 6款 択善会・東京銀行集会所 【第5巻 p.533-538】

ヘンリー・ダニング・マクラウド(Henry Dunning Macleod, 1821-1902)はスコットランド出身の銀行家で、銀行業務や政治経済学等に関する著作を数多く残した人物です。1878(明治11)年8月14日、渋沢栄一は銀行家の親睦団体択善会の第14回会同において、マクラウドによる憑信(クレジットの意)説の訳文を紹介しています。

銀行集会理財新報 第五号・第一―一五丁〔明治一一年九月九日〕
    ○英国大博士ダンニング、マクレオド氏著憑信説ノ概要
                      (津田束訳)
[前略] 銀行ハ手形ナル商人ノ憑信ヲ買フテ小切手ナル銀行ノ憑信ヲ売ルモノナリ、銀行ニ於テ憑信ヲ売買スルコト便易ナレバ、則チ産物運転ノ途開達シ、人名玆ニ勤労スルコトヲ得テ、一金ノ資ナキモノモ鉅万ノ商売ヲ為コトヲ得ベシ、之ニ反シ銀行ニ於テ若シ憑信ヲ世人ニ与へズシテ手形ノ割引ヲ拒絶スルトキハ百般ノ産物悉皆現金ニアラザレバ運転スルコトヲ得ズシテ商売ノ景況必ズ寂寥タルベシ [後略]
(『渋沢栄一伝記資料』第5巻p.533-535掲載)

このマクラウドの説に対し、栄一は「此一篇ノ主眼ハ正ニ割引ノ一点ニ存在シ、極メテ今日要務ト為ス者ナリ」(『渋沢栄一伝記資料』第5巻p.533)と語っています。
当時、第一国立銀行をはじめ独自に銀行券をする国立銀行が林立、金融流通活性化のためには金融機関同士の決済機構構築が急務となっていました。栄一が頭取をつとめる第一国立銀行は、他行との紙幣・為替交換を行う「コルレスポンデンス」網(信用による為替業務代行契約)の構築や、割引手形の裏書き書式を定めるなど、手形・小切手の流通促進施策を行い、都度同業者への提案や政府への上申等を行っています。
渋沢栄一伝記資料』第5巻p.533-537には、択善会において紹介された「英国大博士ダンニング、マクレオド氏著憑信説ノ概要」と、この日同時に詳述された船荷証券取り扱いに関する問答が、『銀行集会理財新報』第5号(1878.09.09)掲載の「銀行集会第十四回録事」からの再録として紹介されています。
参考:マクラウドの古典派批判 : エコノミックスの誕生とマクラウド / 土井日出夫
『横浜国際社会科学研究』第13巻第4・5号 (横浜国立大学, 2009.01)
横浜国立大学学術情報リポジトリ
http://kamome.lib.ynu.ac.jp/dspace/handle/10131/3874
成立期日本信用機構の論理と構造(上) / 靎見誠良
『経済志林』第45巻第4号 (法政大学経済学会, 1977.12) p.31-85
〔法政大学学術機関リポジトリ
http://rose.lib.hosei.ac.jp/dspace/handle/10114/4817
日本銀行のネットワークと金融市場の統合 - 日本銀行設立前後から20世紀初頭にかけて - / 大貫摩里
日本銀行金融研究所ディスカッション・ペーパー・シリーズ 2005-J-18
日本銀行金融研究所〕
http://www.imes.boj.or.jp/japanese/jdps/2005/yoyaku/05-J-18.html